研究内容

地球環境問題の解決方法を評価する統合評価モデルの開発とその応用

地球温暖化や大気汚染、食糧問題、水資源問題など地球規模の環境問題の影響やその解決方法を評価するためには、工学だけでなく、社会・人文科学にわたる知識と情報を有機的に組み合わせる必要があります。広い視野に立って関連情報を整理し、それらの間に存在するメカニズムのモデル化や、定量的な検討、将来推計および対策の立案などに関する研究を行っています。特に今や脱炭素はあらゆる企業で求められています。脱炭素の基礎的・専門的な知識、社会全体を俯瞰的に見るマクロな視点、環境・エネルギーに関連する高度なデータ解析能力が身につき、多様な就職先で活躍できる人材を輩出しています。

1. 統合評価モデルを用いた世界・主要国の温室効果ガス排出量見通しと削減費用の算定

2030年から2100年といった短中長期に及ぶグローバルの温室効果ガス削減に関する研究を中心に行います。エネルギーや経済を詳細に扱ったモデルを用いた解析を中心として、政策提言、及び関連する科学的知見の創出を行います。

エネルギーシステムをモデル化し、脱炭素化への道筋とそれに関連する情報を社会・政策決定者へ示します。例えば、太陽光やバイオマスエネルギーはいつ、どの程度、どの地域で導入が必要で、そのための費用はいくらでしょうか?我々の省エネなどの取り組みは効果がどれくらいあるのでしょうか?そんな問いに答えます。

2. 持続可能な開発目標達成へ向けた政策提言

持続可能な開発目標(SDGs)は貧困、飢餓、水資源や経済、気候変動など2030年における様々な分野の開発に関する目標を設定しており、これらのうち環境に深く関連する項目を取り上げ、2030年に留まらず2050年、2100年までを見通した開発に関する目標を検討します。気候変動だけでなく複数の環境分野にまたがる分析を行います。特に、食料・農業・飢餓、貧困と格差等の人間社会の根本に迫る社会経済的な事象のモデリングとシミュレーション分析を行います。

統合評価モデル全体像とSDGの関連

気候変動緩和策による飢餓リスク増大を防ぐための費用(Fujimori et al., 2019)

Shinichiro Fujimori, Tomoko Hasegawa, Volker Krey, Keywan Riahi, Christoph Bertram, Benjamin Leon Bodirsky, Valentina Bosetti, Jessica Callen, Jacques Després, Jonathan Doelman, Laurent Drouet, Johannes Emmerling, Stefan Frank, Oliver Fricko, Petr Havlik, Florian Humpenöder, Jason F. L. Koopman, Hans van Meijl, Yuki Ochi, Alexander Popp, Andreas Schmitz, Kiyoshi Takahashi, Detlef van Vuuren, A multi-model assessment of food security implications of climate change mitigation, Nature Sustainability 2, 386-396, May 2019 [https://doi.org/10.1038/s41893-019-0286-2]

3. 温暖化による影響費用の算定

温暖化は様々な影響を人間システムに及ぼすと考えられています。農業、水資源、洪水、健康、海面上昇などの分野でそれぞれ発生する影響の費用を主として経済モデルを用いて算定します。対象は世界全体、アジアといった広域を対象として、温暖化を防止することのメリットを伝え、温暖化政策への貢献を目指します。 気候モデル(GCM;General Circulation Model)の出力で得られる気候データを各分野に特化したモデルに入力し(協力研究機関などとも協力)、その結果を経済モデルに入力するというのがオーソドックスな手法になります。

Estimated worktime ratio. Estimated yearly average worktime ratio with a resolution of 0.5° × 0.5°. When the worktime ratio is x, the recommended work-rest ratio is x/(1−x). The left-hand and center columns of panels show the values for low-intensity and moderate-intensity work, respectively, performed indoors (without air-conditioning). The right-hand column of panels shows the values for high-intensity work performed outdoors. The median values of 5 GCMs are shown.

4.気候変動対策と大気汚染

社会システムの脱炭素化は大気汚染を軽減し、人間社会や生態系に様々な便益をもたらすとされています。しかし、それがどの程度なのか、温室効果ガスゼロエミッション目標を満たすような大規模な排出削減を行った時にどこまで便益があるのかはわかっていません。本テーマでは、大気汚染物質の拡散計算を行い、その結果から健康、農業等への影響を推計し、温室効果ガス削減政策の策定へ貢献を行います。

2015年1月のPM2.5の濃度

5. 土地利用変化と水・生態系・農業とのかかわり

土地は水、食糧の供給と深くかかわり人類にとって極めて重要な資源です。また、人為起源の土地用変化はこれまで生態系に大きな影響を及ぼしてきました。さらに近年バイオマスエネルギーの供給のために大規模に土地利用改変が必要になる可能性があると言われています。本テーマでは、土地利用の空間詳細な分布を将来にわたって推計し、農業、水、生態系、エネルギーなどとのかかわりを分析します。

Changes in the factions of grid cell area occupied by each land-use category in 2100 from the 2005 level for the baseline scenario.